コレクション: 忘れられた野菜たちのキッシュ ~ Quiche de légemes oubliés.~

フランス語で「 légemes oubliés.(レギューム・ウブリエ)」と呼ばれる野菜たちがあります。直訳すると「忘れられた野菜たち」となります。

「食戟(しょくげき)のソーマ」(㈱集英社)という漫画の中にも「忘れられた野菜たち」113話(14巻)という物語がありまして、「ゴボウのキッシュ」が登場します。この「食戟のソーマ・四宮シェフ」の「ゴボウのキッシュ」はプロのシェフをはじめ、アニメファンの方々や色々な方たちがレシピを公開したりされています。私もYouTubeなどでレシピを拝見しているうちに、つい自分でも作りたくなってしまいました。

ちなみに、フランスの食文化において、ゴボウは「木の根っこ」であって、好んで食べられる食材ではないそうです。この漫画の登場人物で、孤高の天才シェフ「四宮小次郎」は「レギュム(野菜)の魔術師」という異名を持っており、野菜を重用した数々の料理を作って高い評価を得ているという(キャラ)設定だったと思います。

「忘れられた野菜たち」について、調べてみたくなったきっかけは「食戟のソーマの四宮シェフ」でしたが、調べてみると実に興味深い歴史と時代背景がありました。その概略をまとめてみたので、お時間のある時にでも読んでみてください。

忘れられた野菜たちのキッシュ 

~ Quiche de légemes oubliés.~

今回のテーマである「忘れられた野菜たち」とは、戦前から戦時中に主に食されてきた野菜で、大量生産に向かなかったり、戦時中の食料のイメージが強いという理由から人気がなくなり、市場から消えてしまった野菜たちのことを指してます。

2000年以降の健康志向ブームの影響から、珍しくてお洒落な野菜のイメージに格上げされ、少しずつですが市場に出回りつつ、定着しつつはありますが、いまだに大量生産や大量消費されることが難しい野菜たちではあります。

1.トピナンブール(和名;キクイモ)

具体的なフランスのレギューム・ウブリエを上げると「トピナンブール」があります。これは北アメリカ原産の「キクイモ」という野菜で、キクに似た花を咲かせ、イモができることから付けられた和名ですが、海外でその味はアーティチョークのようだとも言われています。繊維が豊富で低カロリー、生でも食べることができるシャッキとした食感が特徴的で、味わいは淡白、ピューレにしてバターと合わせると美味しい野菜です。

キクイモは、第二次世界大戦中に加工用や食用として栽培されたものが野生化したものが、世界中に分布しています。キク科ヒマワリ属の多年草で、非常に繁殖力が強く戦時中の食糧難では重宝されましたが、現在では他の生態系を荒らすため、外来生物法で「要注意外来生物」に指定され、抜き取りや刈り取りなどの除去を推奨されるほど厄介な野菜になってしまいました。こうなってしまうと野菜としてのイメージは崩れる一方で、農家で扱うべき野菜ではないと言われてしまっているようなものだし「忘れられた野菜たち」の中でもキクイモは、悪役まっしぐらです。食べたら意外と美味しいのだけど、その繁殖力の強さゆえ、本当に残念な称号を与えられ、脇に追いやられてしまった野菜だと思います。

2.ルタバガ(和名;スウェーデンカブ)

代表的な「忘れられた野菜たち」には、「ルタバガ」と呼ばれる蕪に似たセイヨウアブラナの変種で、キャベツと蕪の中間のような味わいをもつ野菜があります。日本ではあまり知られていませんが、西洋カブもしくは「スウェーデンカブ」として売られていることがあります。

アブラナ科アブラナ属の根菜で、寒さに強く霜に数回当たることで、甘みや旨みが増し長期(数か月)保存も可能です。また加熱した時に味わえる甘みと風味は格別だとされています。ルタバガは、フランスでは「忘れられた野菜たち」でも、世界的に見れば北欧を中心に様々に料理されています。また、スコットランドの郷土料理「ハギス」の横にはマッシュしたポテトとルタバガを添えるのが一般的ですし、ハロウィンのジャック・オー・ランタンはカボチャが普及する前には蕪やルタバガで作られていたとされています。

なぜこの野菜が、ヨーロッパ諸国で人気がないのかというと、第1次世界大戦中のフランスにおいて、他の食料が底をついた後に食べるものとされ、食糧難をルタバガを常食することで凌いだというイメージから、食物として不評になり、生産量が減少したと言われています。

3.パースニップ(和名;シロニンジン)

さらに、画像のファーマーズマーケットの野菜は「パースニップ」です。パースニップは、セリ科の二年草で、ヨーロッパ原産の人参に似た根菜です。日本では「シロニンジン」とも呼ばれています。その味わいは「食用となる主根は白く肉質で、ニンジンに似た香気があり、味は淡白で甘みとわずかな苦味がある。花の匂いの味にも感じる。(Wikipedia)」とされ、とても美味しいと書いてありました。シロニンジンは、さつまいもと人参をあわせたような味わいをもち、加熱すると甘みが増し「ナッツのような風味」になります。多くの人も魅了してくれる美味しい野菜だと思うのですが、日本でも知名度は低く、あまり流通はしていません。

流通しにくい理由として、栽培が難しいことなどが挙げられます。セリ科の特徴でもありますが、茎と葉の汁に毒性を含んだ成分があって、汁が皮膚に付着したまま日光に当たると赤くただれたり、水泡を起こすといった症状がみられることがあります。さらにパースニップは、栽培するうえで病害虫がつきやすい品種で、大量に栽培することが難しいとされています。このように美味しいけれど、取り扱いが難しかったり、栽培が困難であるため「忘れられた野菜たち」になってしまったという野菜もあります。

4.その他の「忘れられた野菜たち」

また、日本でいうところのゴボウは、日本ではよく食べられている代表的な根菜ですが、先述のようにフランスでは「木の根っこ」として敬遠されていますし、日本の正月のお節料理の黒豆と一緒に提供される「チョロギ」はフランスでは「クローンヌ」と呼ばれる「忘れられた野菜たち」です。なぜかフランスでJaponeseと呼ばれる料理にはチョロギを盛り付ける風習があり、フランスの日本食のイメージは未だに御節料理なのかと不思議に思うことがあります。

他にもフランスの食文化において知られていない日本の野菜は、まだまだ沢山あります。例えば、ジャガイモによく似た食感をもつ「百合根」を最近まで著名なフランス人シェフのジュエル・ロブション氏は知らなかったそうです。百合根を素揚げして、一つまみの塩をしただけで本当に美味しいオツマミになることを私たち日本人は、古の時代から知っています。百合根が市場に出回る頃、高級な和食料理店で味わう「百合根の天ぷら」は旬を感じる一品だと思います。

しかしながら近年の傾向として、フランスでいうところの「忘れられた野菜たち」の多くは、根菜を中心とした野菜で、第二次世界大戦の食糧難でも生産することが出来るほど繁殖力が強く、とても優秀な野菜たちであることが認知され、注目されつつあります。すなわち「忘れられた野菜たち」のその殆どが、農薬も肥料も少なく栽培できる特徴があることから、オーガニック食材や健康に意識の高いフランス人から支持されつつあるという事です。

 

終わりに・・・

このような複雑な事情から敬遠され、疎外され、隅に追いやられてしまった「忘れられた野菜たち」をテーマにした美味しいキッシュを作って、野菜本来の美味しさを知ってもらいたい。「食戟のソーマの四宮シェフ」とかぶっている気がしなくはないですが、そこは気にしないでください。美味しい野菜と美味しいキッシュを知ってもらうキッカケなんて、実はなんでも良いのです。

全ての人が食べられるキッシュを焼いていきたい。無添加のキッシュやアレルギー対応のキッシュなど、作ってみたいレシピがまだまだ沢山あります。これから私たち「Alec’s  Red Deli」のスタッフは、お客様のために頑張って、美味しいキッシュを焼いていきます。

どうか、これから私たち「Alec’s Red Deli」を宜しくお願いします。

             2022年6月26日  小林絵里